ある日、父に尋ねられた。
「バイクにカード付けるのどうしたらいい?」
わたしは、はあ?、と間抜けな声を出し、
「カードって?」
「カードは、カードだ。ほれ、金払わなくていいやつ」
父が意味していることが、やっと分かった。
「ああ、ETCカードのことか。それなら、専門器械がないと」
「高いのか?」
「そこそこじゃない」
「いくらだ?」
「2,3万かな」
父が缶ビールに口を付けた。
彼は、車に乗らない。若い頃からバイク派だった。
会社へも、バイクで通い、たまに帰りが遅いと、
大抵、バイクで転んだ、などと言っていた(笑)。
けれども、なんで今頃、ETCカードなんか必要になったのか?
「でも、何に使うんだ? 高速道路に行くことなんかあんのか?」
「いやあ、なに。バイクの日本一周が夢だから」
わたしは、にこっとし、それ以上尋ねなかった。
しかし、思った。
現在、父は、70を過ぎている。
定年後は、自転車でパート勤めをし、バイクに乗らなくなってから、
しばらく経つが、そんな人が夢を語るなんて、もうヤバイかな?(笑)
ビールを飲んだ父が母に言った。
「おい、日本酒持って来てくれ。それから、スルメ焼いてくれ」
チキショー、と思ったわたしは、親不孝の息子だろうか?(笑)